「お前には取り柄がない」
何度言われただろう、この残酷な言葉を。自分でも分かっている。秀でた才能もなければ、特別なスキルもない。自信なんてものは、砂漠に咲く花よりも貴重だ。
でも、大丈夫。僕には、最強のエンターテイメントがある。それは、「妄想」だ。
そう、頭の中の世界なら、僕は何にだってなれる。世界中から賞賛される天才アニメーター?もちろん経験済みだ。鉛筆がペンタブレットに、スケッチブックが液晶画面に変わるだけで、僕の創造力は無限に広がる。
最新技術を駆使して生み出した、息をのむほど美しい映像。個性豊かで魅力的なキャラクターたち。それらが織りなす、壮大なストーリー展開。想像するだけで、心臓がドキドキと高鳴り、全身に鳥肌が立つ。
僕の描いたアニメーションは、世界中の子どもたちを熱狂させ、大人たちには忘れかけていた純粋な心を思い出させる。そして、世界中の映画祭で賞を総なめにし、僕のドキュメンタリー番組が制作されるのだ。インタビューで、作品に込めた熱い想いを語り、世界中のファンから賞賛の嵐を浴びる…。そんな自分を想像すると、自然と顔がニヤけてしまう。
あるいは、世界を変える発明をした凄腕の実業家?それもいい。頭に浮かぶのは、スタイリッシュなオフィスで、開発中の最新ガジェットを手に、真剣な表情で議論を交わす自分の姿だ。
そして迎える、新製品発表会の日。世界中のメディアが注目する中、スポットライトを浴びてステージ中央に立つ。時折見せる真剣な眼差し、聴衆を惹きつけるカリスマ性、そして未来への希望に満ちたプレゼン。想像するだけで、ゾクゾクするほどの高揚感が込み上げてくる。
こんな風に、妄想の世界では、僕は無敵だ。誰もが憧れるような成功を収め、人々から尊敬され、愛される。現実では味わえないような、強烈な幸福感に浸ることができる。
そして、この妄想タイムに最適な場所が、散歩道だ。
イヤホンで好きな音楽を聴きながら、ゆったりと歩を進める。すると、自然と頭の中に映像が流れ始める。周りの景色は、いつの間にか、僕の妄想の舞台へと様変わりする。
行き交う人々は、僕の成功を祝福してくれる仲間やファンに見えてくる。信号待ちの交差点は、記者会見場の入り口に。横断歩道を渡れば、そこはレッドカーペットが敷かれた授賞式の会場へと変わるのだ。
こんな風に、妄想しながらの散歩は、最高に楽しくて幸せな時間だ。現実のストレスや不安から解放され、都合の良いことだけを考えていられる。まさに、至福のひとときと言えるだろう。
「そんなこと考えても仕方ない」「現実に目を向けろ」
そんな声も聞こえてきそうだ。でも、それでいい。だって、妄想は僕だけの秘密の楽園であり、誰にも邪魔されることのない、自由な空間なのだから。
だから今日も、僕は歩き続ける。頭の中で、まだ見ぬ自分に会いに行くために。そして、妄想という名の魔法で、ありふれた日常を、輝きに満ちた世界へと塗り替えていくのだ。
さあ、現実なんて考えずに、外に出て最高妄想に励もう!
コメント